王位戦挑戦者決定戦

世間は71期名人戦で盛り上がる中、コアなファンには
行方八段が初のタイトル戦の挑戦権を得るか?!
注目されていた54期王位戦挑戦者決定戦。
名人戦第5局を翌日に控えた5月29日、東京将棋会館で指されました。


その対局の初め6手までを観戦して来ました。
観戦条件は後述。


■観戦に至るまで
東西将棋会館でタイトル戦が指されることは稀です。
(対局者の方々、将棋会館に引き寄せて♪)
そういう意味では、挑戦者決定戦はタイトル戦みたいなもの。
公開対局は何度も生で観戦しているけど、そうではない対局を
ぜひ観戦してみたいと思いました。


自身の体調都合もあって、連盟に観戦希望をしたのは
二日前の27日月曜日。
王位戦決定戦を観戦したいのですが」
そう伝えた途端、連盟スタッフ明らかに動揺。こちらの詳細を言う間もなく
「新聞社に確認してみないと!折り返しでよろしいですか?」


もちろん私も、そんなに簡単に対局室に入れるとは思っていませんから、
正装じゃないとダメかとか、当日にこちらが発熱などした場合
観戦をドタキャン出来るのかとか… そんなことを確認してから
新聞社への確認をお願いしました。


王位戦は主催新聞社の数がもっとも多い棋戦。確認は大変かなぁ…
と想像しながらも連絡を待っていると、翌日の朝、連盟から
「了解が出ました♪」
と嬉しい電話がありました。


両対局者にも事前連絡しておく、とのことだったので、
この時点でお二人も許可くださったのかも知れません。
私が前日から準備?でルンルンになったのは言うまでもありません。


過去にも王位戦新聞社のうちの某にはお世話になったことがあります。
新聞社によって温度差があるように感じますが、本当に感謝☆


■いざ観戦
前日からルンルンだったと書きましたが、それは子供の遠足の類ではありません。
対局者にとっては挑戦権を取るか取らないかの大事な場面。
本来ならマイペースで臨むところに、部外者が紛れ混むのですから
こちらも邪魔にならないように最大限の配慮が必要です。


連盟に確認依頼したとき、
「赤い服で来るなとか、対局者と目を合わせるなとか、そういうルールあります?」
と聞いたほどです。


当日は開始15分前に会館へ行き、10分前には対局室に入って、
対局直前に入室するであろう対局者を待つことになっていました。


東京将棋会館の対局エリアには、イベントで何度か入ったことがあるので
他のフロアとは全く違う雰囲気であることは承知していました。
その佇まいに今さら緊張することもありませんでしたし、
「特別対局室」が今回の会場であることにも驚きませんでした。


が!何が驚いたって!


特別対局室の前室まで入って中を確認した連盟スタッフが、私を
廊下近くまで連れ戻し、小声で
「(私のための)座布団が無いので、待ってください」


スタッフが対局室入口の端っこに座布団を持って案内してくれたとき、
そのすぐ後ろに床の間があったので、私はそっちが上座かと思ってしまい、
「上座にですか?」
と聞いてしまいました。
本当は違うのに、スタッフは「うんうん、早く座って!」というアイコンタクトを
送って来たのでした。


じゃあ、と入室してみると!
部屋中央の盤の向こう(上座)に、佐藤九段が和装で
集中モードに入っているではないですか!!


思わず尻餅をつくか、廊下まで転がり落ちるかしそうなほどに
驚いたのですが、ぐっと堪えて、何事もなかったかのように
座布団に乗りました。


部屋には他にも記者の方々とか何人か居たのですが、
佐藤九段の集中モードから放出される緊張感は強烈で、
脚は崩していいと言われてたのに、とても崩せる余裕はありませんでした。


時刻はどんどん過ぎるのに、行方八段はなかなかいらっしゃらない。
私はただひたすら無表情を装いながら、佐藤九段にエールの念を
送るしかなかったです。
このときの対局室の緊張感は、できればもう体験したくないほど
強烈なもので… 正直に申しますと、この日は胃腸を壊しましたw


中継ブログによれば行方八段が入室したのは3分前。
入るなり席に就き、駒並べが始まりました。
記録係?がお茶を淹れようとしたら、行方八段は
「お茶は要りません!」
とキッパリ。イベントなどで話す時とは全く別人な感じ。
あの特有の、ふんわりした温かみに包まれた印象は皆無でした。


行方八段はほぼ背中を向けるかっこうになりましたので、表情は分かりませんでした。
駒並べが終わって振り駒になる頃、ようやく鞄から荷物を取り出す行方八段。
水か発泡水か、酵素水か?は不明ですが、その鞄から出てきたペットボトルは
もう半分、空になっていました。
そのペットボトルだけで、いかに行方八段も緊張していたかを
伺い知った気がしました。


■対局開始
「振り駒です」


毎回、なんであんなに振るのかな〜と思うほどカラカラと歩5枚が鳴って、
今局は綺麗に5枚が宙を舞いました。
「と金が4枚です」


佐藤九段の先手を願っていた私にはちょっと残念な響きでした。
このとき微妙ですが、佐藤九段も表情が変わったように感じました。
「行くぜ!」という感じから「出方次第だなぁ」という感じに。


予定時刻を過ぎているとかで、対局はすぐに始まりました。
「7六歩」のあとの手を予想し始めていた私は、行方八段がなかなか初手を
指さないのは、ありがちな精神統一かと思っていました。


が、初手は「2六歩」。
それを見て佐藤九段、軽くうなずきました。
流行の戦型には疎い私(いや、プロ棋戦全般、わけ分かってないけど)は
これは戦法がいきなり絞られてくる一着ではないか、と思いました。


後手△3四歩。これに先手▲7六歩。 そして私的には想像もしていなかった
後手一手損角換わり。
それって後手にとっては難しい将棋になるんじゃなくて?という印象を
まだ持っている私だけど、このときの佐藤九段は「行くぜ!」表情に戻っていて
次の△4二銀以降が楽しみになりました。


■観戦の条件
で。この6手目が差されたところで、連盟スタッフから合図があり、私は対局室から
追い出され 出ることになりました。


観戦の条件は、連盟公認のどこかの支部に属し、かつ特別会員将棋世界会員の必要が
あります。
その特典を使っての観戦だったわけです。が、連盟スタッフに
「挑戦者決定戦を指定された方は初めてです」
と言われました。
まぢですか?? また私は無知を武器に、プロ棋戦の敷居を平然とまたいだのでしょうか??


どちらにせよ、新聞社や対局者に事前確認とか、多方に手間をかけさせてしまったのは事実。
良い子は真似しないほうが良いかと思います。
ただ、対局直前の緊張感は、なかなか感じる機会はないと思います。
挑戦者決定戦なんてど迫力の対局を指定しなければ、一度、実感してみるのも良いかも。


■挑戦者は。
行方八段に決定しました。最後の熱い1分将棋は、さすがに生観戦できません。
というか、自分のためにも、そんな現場には居ない方が良いです。



佐藤九段が発信していた緊張感をまともに受信してしまった私は、それから復活まで
5時間を要しました。
2時間は歩き回って気を散らし、あとの3時間は自分の専門分野に没頭です。
でも「ここなっつさん、今日疲れてません?どう見てもやつれてますよ」
そう言われてしましました。
没頭とか言いながらも集中力に欠けるし。


将棋って文化的なゲームだけど、やっぱり戦争なんだよ…そんな印象を抱きました。
本当に、人生にあるかないかの貴重な経験になりました。